Shop 京都市


 今回の計画地は、若者向けの文化施設や商店が軒を連ねる京都市内の南北の通りの1つ御幸町通にひっそり佇む老舗旅館の2階。築150年以上の木造2階建京町屋”田中屋旅館”の客室2部屋をつなげてアパレルショップに生まれ変わらせるというプロジェクト。
「NATAL DESIGN」は、過去の伝統や現在の流行、カルチャー・アート・ファッションを独自の視点で解釈し、デザインやディテールに落とし込んだカジュアルウェアとライフギアを展開するブランド。
 そんなブランドコンセプトから着想を得て、江戸時代の伝統的な木造建築様式である京町屋とNATAL DESIGNが築いた他にないエッジの効いた文化が出会うことで新たな空間体験を生み出す場所となるようストアデザインを構築しました。

 一世紀以上の歳月が作り出した躯体のテクスチャーと構造を生かしながら、クラシカルなデザインのアキスミンスターカーペットを敷き込み、壁を左官仕上げとしています。京町屋の歴史を感じさせる天井をそのまま現した中に、紺と赤を対比的に見せることでお互いのテクスチャーを引き立て合う空間を目指しました。
 床から天井に向かって下部がカーブした腰壁を立ち上げることで床と壁の境界を曖昧にし、心地よい違和感が空間のアクセントになるよう意図。
 空間を構成する素材は、歴史を記憶した梁と柱、ラグジュアリーとクラシカルな印象を併せ持つカーペット、ジャパンブルーと称される藍色のモルタル左官、オブジェのようなガラス張りのアンティーク什器。これらの様々な要素をベースに、クラシックと新しさを追い求めるファッションが混在することで、商品の背景となりつつ、ブランドが持つ世界観を高めていく「場所」となっています。

ガラス製のカウンターからお土産を選ぶ感覚で、服や小物などのショッピングを楽しめる作りにしています。

キャンプシーンを牽引する存在であるNATAL DESIGNのイメージをモルタル壁に山並みを描くことによって伝えています

外観の様子。現在、田中屋旅館はNATAL DESIGN監修のもと「HOTEL Clam Chowder」へと変貌を遂げています

 自然光が採れないエリアには太陽光を再現したLED照明を設置。再構築した壁面には、アイアン製のハンガーパイプを仕込み、新たな機能と造形を引き立てています。この店舗では、アパレル販売だけでなくアーティストとのコラボレーションや展示会といったイベントを開催。

左/什器が全面ガラス張りなので、ディスプレイや商品を気軽に眺めることができる 右/店舗入口から1階を見る

左/1階から階段を通して店舗入口を見る 中/衣類やアート作品をワイヤーで吊るディスプレイ 右/トイレ建具は存在感を消すために壁面と一体となるような仕上げに

《 BEFORE ▷ AFTER 》

 この店舗が入る敷地は、1階が飲食店、2階がアパレルショップと宿泊部屋となっています。ショップへ登る階段へは、飲食店の間を通る動線となっており、食事を楽しむ客人と2階へ向かう客人が交わるカタチ。目的は違うけれど、空間を共有することで、人と人とのコミュニケーションにおける寛容さが広がっていくように感じています。
 アパレルショップの設計は、商品を購入することだけが目的の場となるのではなく、スタッフと客人が商品というツールを通して価値観を共有し深い関係を築く場として、ブランドの特色を活かすべきだと考えています。この場所に身を置くことで、ブランドの世界観を肌で感じながら、じっくり商品を吟味できる居心地の良さも感じる空間となっています。