Shop 天王寺


 敷地は日本最古の仏教寺院である”四天王寺”より少し南に位置する、歴史ある街並みと静かな雰囲気の住宅街です。築60年超の木造2階建の長屋を改装し、カフェ・バーではあるけれどもギャラリーなどにも使える多目的な空間にするという計画です。
 飲食店に求められる最低限の清潔感を保ちつつも、時間の積み重ねを感じさせる既存の仕上げを空間の表情として引き継ぐため、建物に寄り添うデザインを心掛けました。
 ファサードデザインは、奥行き感と入りやすさを意織して、建具を木とガラスで構成。店内の奥にある中庭まで見通せることで、店前を歩く人がフラッと立ち寄リたくなるような空気感が、入口から店内へ抜けます。

 店内は、カウンターをメインとしたレイアウト。この建物の歴史を記憶した「梁」と「柱」を引き継がせてもらい店舗の一部として存在させる空間を構成。
天井をスケルトンとすることで高さを確保し、照明を抑えて暗くすることで落ち着きと、精神的な広がりを感じられる雰囲気を作り出しています。
 カウンター内の壁はモルタルと珪藻土の異なる素材で仕上げ、座る席によって見える景色が変わり、客人に楽しめるようにと意図しています。モルタル壁の表面はコテを用いてムラを出して仕上げることで、無機質感を和らげています。

店内を外部の延長のような空間と見立て、通りに開いたガラス張りのファサードを通して街とつなげています。
 前面道路を行き交う人々から、ふと見た時に店の中が感じられ、街に溶け込むように親しみを感じられる場所となることを意図しています。エントランス脇にはテイクアウト用の窓を設けており、店内でコーヒーを淹れる様子を、道行く人々に伝えています。

 内外の連続性をつくるためにテイクアウトウィンドウから店内までシームレスに造られた全長約7mのモルタル仕上げのロングカウンター。日中の店内では、細長いカウンター上に自然光とペンダントライトによるグラデーションのかかった光が広がります。

ビールサーバーを設けることがシームレスなカウンターのノイズとなるため、瓶ビールスタイルとなっています。

 古い建物と調和するよう敢えて露出配管の洗面台としています。配管は無骨になり過ぎないよう真鍮ものをセレクト。ミラーからスイッチまでトイレ内の備品全てを真鍮素材で統一。

左/カウンター内から既存の土壁を見る
中/ペンダントライトは「LIGHT YERAS」の溶岩で作られた"more light"
右/カウンターから連続性を持って作られたベンチ席

左/施主のDIYによる漆喰仕上げで作られたギャラリーへと上る階段
左中/フラワーデザイナー”baobab"の木下さんに製作していただいたドライフラワーと苔で作った直径100cmのピースマーク
右中/エントランスに鎮座する"Cul de Sac"のヒバスツールを消毒液置きに
右/ボトル棚を見る

 店内のどこの席に座ってもグリーンを望めるように意図して作った中庭。視覚的、空間的に内と外をシームレスにつなげるため、屋内外の色や素材感に連続性を持たせました。店内からは大きなFIX窓が額縁のような役割となり、成長する植物が日々変わる絵となるよう見立てています。
緑に包まれながらモルタル製の花壇ベンチに座り、ゆったりコーヒーやお酒を楽しむことができる安らぎの空間。

左/「LIGHT YERAS」のボシャルウィットを敷いた中庭をバックにした小上がりの客席。
中/ライトアップされた夜のテラス席。木々の陰影がアイキャッチとなり店外から奥への誘導効果を高めています。
右/中庭テラス席から店内を見る

左/既存土壁前に取り付けたステンレス製のミニカウンター。満席時やイベント開催時にはスタンディング席となり、またギャラリー貸しとする場合には、作品のディスプレイも兼ねる
右/施主が集めた世界中の様々な味の”クラフトジン”が味わえる

左 /トイレ奥の様子
左中/中庭入口からエントランスを見る
右中/既存現しとした天井。印字された素材が歴史感を醸し出しています
右 /カウンターのペンダントライトは「NEW LIGHT POTTERY」の"Bullet"の真鍮製

【店内】 BEFORE ➡︎ AFTER

【テラス】 BEFORE ➡︎ AFTER

【トイレ】 BEFORE ➡︎ AFTER

【ファサード】 BEFORE ➡︎ AFTER

 オーナーがジンのメッカでもある英国へ渡った際に、肌で感じた刺激的なクラフトジンブームを大阪で浸透させたいという想いから計画はスタートしました。
空間デザインは、できるだけ建物の地肌や天井高を生かし、無機質でソリッドでありながらも滞在すると伝わる心地良い空気感を意識しながら構築。
 土壁・珪藻土壁とモルタル床で構成した空間の中央には、ダイナミズムのあるモルタル製ロングカウンターをコの字に設えています。モルタル素材を基調とした無機質な雰囲気の中に、使い込むほど味が出る無垢材と真鍮素材を取り入れることで、冷たく硬い印象とならないように温もりを持たせバランスを整えました。
「住宅地のカフェ・バーだから気軽に押し付けがましくなく飲みやすく、ゲストに合ったジンとコーヒーを。」そんな親しみやすいオーナーの感性に触れ、温かなコミュニケーションが生まれる”四天王寺”の玄関となるよう思いを込めています。